で、つづきです。

　あなたは、ボイスつきのエロゲーで、音声出力をウザったいと思ったことはないだろうか？
　２回目以降のプレイならスキップ連発かますとしても、初回プレイだからとりあえず一通りは聞いておきたい、けど、すげー、うっとおしい、とか思ったことは。
　それは、どんなシーンだろう？
　私の場合は、説明ゼリフや、面白くもない日常会話が長く続くシーンである。あと、肝心のアノ場面でも変わり栄えしない単調なセリフが続くとウザい。
　こういうのは典型的な｢声入れてみただけ｣という作品の失敗例だ。
　根本的なことだが、なんで声を付けるんだろう？
　当然、女のコをより魅力的に描くためだよね。
　じゃあ、説明ゼリフを長々と続けることや、おもしろくない日常会話を繰り返すことや、ワンパターンのアノ声を繰り返すことが、「魅力的」なの？ってそういう単純な話さ。
　声を入れることが良いとか悪いとかじゃない。何のために？ってこと。

　声の魅力というのはもちろん大きい。しかし、音声出力するということは、その間、プレイヤーの時間を強制的に作り手の時間に引きこむことになる。それがゲーム全体としてきちんと計算されたものであればいいのだが、そうでない場合、プレイヤーの時間軸と、セリフパートの時間軸の不整合が出る。それを可能な限り緩和する仕掛けなり、シナリオレベルでの配慮なりが不可欠だろう。
　そういう意図なのかどうか分からないが(というか、まず間違いなく容量とか制作費の都合があるんだろうが)、一部分だけ音声つきとか、セリフ以外の形での音声つきというゲームも見かける。
　わりとよくあるのが、エッチシーンのみ音声つきというパターン。あまりにも「目的」に沿ってるのがなんかイヤンなカンジだが。
　後者は珍しいケースだが、『恋クラ -Director's cut-』がなかなか面白い。これは、デートモードとかに切り替わるときに女のコの声が一言だけ入るとか、女のコのプロフィール確認画面で自己紹介が聞けるとかいうものだった。当時はなかなか斬新な演出だと感心したものだった。

　えーと本題に戻る。
　セリフを単純に音声化するゲームでは、極力無駄を省くようにしたほうが良い。
　ひとつひとつのセリフを短かめに、説明ゼリフは避け、｢女のコの魅力を増す｣という当初の目的を忘れずに。
　しかしそれでも、ある程度改善できる、ということに過ぎない。プレイヤーの時間軸に強制介入するという根本的なところはどうしようもない。
　じゃ、どうするのかというと、方法は３つ。
　１つは、｢ある程度｣改善して、プレイヤーの頭の中の時間と音声出力の時間のズレを小さく保つこと。
　２つめは、キャラクター自体が魅力的であること。このコの声をもっと聞いていたい、と思わせるほどのキャラなら、説明ゼリフだろうが日常会話だろうが、声を聞けること自体が楽しいのだ。時間軸がどーのなんて、これに比べたらぜーんぜん小さなことよ。マジで。
　３つめは、音声・アニメーションなどの時間軸に沿った演出を大前提にして、作品全体を映画のように作り上げること。しかしこれはインタラクティブ性と如何にして両立させるかなどの未知の領域がまだまだ多いのだ。
　あとは番外として、ゲーム中のセリフ以外の部分で声を聞かせる方法。文中で紹介した『恋クラ -Director's cut-』のようなものとか、あるいはゲーム本編とは別にドラマCDを聞いて声を頭に叩き込んでからゲームをプレイするとか。しかしあくまで番外だね。
　なんにせよ、ボイスつきならボイスつきなりの作り方が要求されるよっていう至極単純なことね。
　私個人は今でも「フルボイス」という売り文句についフラフラと誘われてしまうクチだが、最近はボイスなしゲームの軽快な操作性を心地よく感じることもある。
　実際、ボイスなしゲームを一貫して作りつづけているアリスソフトやメイビーソフトの人気がそのせいで低下するなんてことはないし。結局は作品の完成度だからね。

[ちょっと言及]
　古くからボイスつきを手がけてきたディーオーはさすがに巧いという感じがする。最近の作品はあまりやってないんだけど。
　シーズウェアもボイスつきでは老舗だ。ここは音声出力時にセリフをテキスト表示しないという思いきったことをやった実績もある。
　グラフィックの可愛さでは常にトップクラスのＦ＆Ｃは、音声の扱いに関してはかなり甘い。いかにも｢ただ単に声つけただけ｣という感じだ。

[蛇足]
　ボイスつき／なしに限らないが、エッチシーンで、地の文章による描写がなくてセリフばっかり、というのはどうかと思うなぁ。喋らせすぎるとチープな感じだし、文章によるいやらしい描写にはかなわないでしょ。とくにフルボイスに頼った作りのゲームでその傾向が強いので蛇足してみました。