言葉はなんて無力なものか。
　「どうしたの？」と訊ねても、その本当の心の内を答えられるとは限らない。
　とくに有馬は、素直に甘えることが下手だ。自分が甘えたいと思っている、そのことを自覚するのが下手なのだろう。そうしたことが、容易に人と人を遠ざけることがある。
　そんなことをモノともせずに、彼女は彼を抱きしめる。
　そんなことはべつになんでもないんだ。
　それが、「好き」ってことなんだろう。
　あのときの有馬にどう接するべきなのか、テレビを見ながら何も思いつかなかった私はまたひとつ思い知る。私には分からないことが　この世にはなんてたくさんあるんだろう。

　この週報に「書きたい」と強く思うようなことが減ってきた。
　よく考えると、俺にとって「カレカノ」は、週報を始める前の「彼氏彼女の関係になった回」が最終回であったかもしれない。「最終回」という言い方が不適切だとしても、最大のクライマックスがあの回だったことは間違いない。あとのストーリーは外伝みたいなものか。

　建史がひとつだけ失念していることがある。
　彼は、構って欲しかったんだ。何もかもあきらめたことにして自分を納得させようとしていた彼は、佐倉椿によってそれを思い知らされたのだ。
　だれからも顧みられないなんていやだと。
　建史当人の思惑とは裏腹に、彼の行動がどうも微笑ましいものとして映るのはそういうことだろう。

　椿は、何を気にしてるんだろう。
　少なくとも、椿が建史を意識しているその仕方は、建史が企んでいる「無視できない優れた存在」に対するものではない。
　椿が何を気にしているのか気になる。
　それは、また私にはわからないこと、なのだろうか？